西サハラのダクラから鮨詰め状態のメルセデスで到着したのがモーリタニアのヌアディブだった。
水平線が明るくなってきた朝に出発し、ヌアディブの町が夕闇に沈む頃、到着した。
信じられないくらいの簡素な国境越えをし、驚きに満ちた一日だった。
地図で見ると、ヌアディブは細長い半島の先端の方に位置している。
ヌアクショットがモーリタニアの政治の中心なら、ここヌアディブは経済の中心地。空の表玄関といわれ、第2の都市である。西サハラから大西洋に細長くたれたカップ・ブラン半島(Presqu’ile du Cap Blanc)の内側、レヴリエ湾(Baie du Levrier)に位置する。
1923年、航空郵便の中継地としてフランス人が開発した町で、当時ポーテチエンヌ(Port Etienne)と呼ばれていた。フランスのトゥールーズからカサブランカを経由し、サハラを越えてはるばるセネガルのダカールまで郵便物を輸送していた飛行機の空港があったところで、当時の様子はサン・テクジュペリの「人間の大地」や「南方郵便機」に詳しい。カップ・ブラン沖の大西洋は暖流と寒流のぶつかる豊かな漁場で、ヌアディブはここに集まる世界の漁船の寄港地でもあり、日本ともつながりが深い。
また、ズエラットからはるばる700kmもの道のりを220両もある世界一長い、世界一重い鉄鋼列車(アイアンオー)で運んでくる鉄鉱石の輸出港でもある。ヌアディブの町はずれポワン・サントラル駅で降ろされた鉄鋼はモーリタニアで最大の企業、鉄鋼公団(SNIM)所有の鉄鋼船に積み込まれ、世界へ輸送される。
ヌアディブ自体人口7万人ほどの小さな町で、市内で際立った観光地はないが、周辺の海岸はきわめて美しい。切り立った崖、いくつもの小さな入り江、海岸の縁まで砂丘が押し寄せ、いかにもサハラ砂漠が始まるという感がある。
ヌアディブでは、ターバンのような体を覆うものを買い、アイアンオーに乗り込む為に備えた。
鉄鋼列車の中では、私が日本から持って来た使い捨てマスクが役に立った。
「こんな便利なものが日本にはあるのか。」
と、皆が歓喜した。
アイアンオーの貨物車の中で友情がしっかりと芽生えた瞬間だった。