寒い!シェムリアップに向かうバスの中にいる。エアコンの口が壊れて、直接冷気が降り注ぐ。上着を着ようにも、すでにバスの荷物置き場の中にある。寝ていない私は、バスの中で寝ようと思っていた。ところが、隣のカンボジア人フェラムが、自らの流暢な英語を披露するのが楽しいらしく、寝かせてくれない。
このバスに乗っている客は、私以外全員カンボジア人だ。窓の外の対向車をしばらく眺めてもローカルバスらしきものは走っていない。そういえば、出発の時にシェムリアップ行きが数台連なっていた。ようするにツアーバスはローカルバスも兼ねていたのだ。
やがてシェムリアップ郊外のバスステーションに到着する。自分がどこにいるのかわからない。降りたとたんに、TukTukと書いたプラカードを持った男たちに取り囲まれ、激しい争奪戦が始まる。なんせ、何度も書くようだがツーリストは私一人である。その輪は2重にも3重にもなっている。もう、一歩も動けない。全員で叫ぶものだから何を言っているか聞き取れない。と、その時、駅員が来て警笛を鳴らし私を誘導してくれた。助かったぁ〜、と胸をなでおろしたのはほんの10秒前後。すぐにまた、男たちに取り囲まれる。結局、ここでは困ると場所を移動されただけであった。日本語を喋る男もいるが、こういうのに限って危ない。違う男を見ただけで、“危ない、危ない”と叫んでいる。右手にいた男の手をつかみ、おまえにするという意思表示をした。とにかく素早く、ここから離れたかった。
その男はティーというやくざ顔だが、こういう無骨な奴は往々にして優しいものである。安宿を20軒は廻ることと、本当に100リエルだなと、何度も念を押して乗り込んだ。プラカードには100リエル(3円)と書いてあったのだ。
安宿をかなり廻った、15軒以上になるだろう。しかし安く好みの宿が見つからない。結局、彼のホテル(最初に行ったのでそうだろう。5ドル)に決めた。部屋がまあまあなのと、人々の対応がフレンドリーなこと、それに、100リエルでは彼に申し訳ないと思いはじめたからである。
ティーは、私が見込んだだけあって、本当に親切で優しい奴だった。それにしても人懐っこさも度を過ぎると、このようなことになるのである。