まだ明けやらない朝、私はブンデイ駅に行こうと急いでいる。
街の中心から600mと書いてあったブンディ駅には、もう2kmくらい歩いているのに着くことができない。
「なんだよ~、ガイドブックなんか信用するんじゃなかった。」などとぶつくさ言いながら、気持ちは焦ってしまう。
急いでいるのは、チトールガル行のローカル汽車に乗るためだ。
今日は、チトールガルの城跡を見ようと日帰りで予定を組んだ。
行きの汽車はあるものの、帰りの汽車は適当な時間にはない。
向こうに着いたらバスでも調べて帰ろうという、まったく気ままなピクニックのはずだったのに、最後には走っていた・・・。
その後は、無事チトールガルに着いた。
さて、今日のこずかいは、財布の中身を確認すると850ルピーである。
そのくらいあれば、どう考えても足りるはずだと思っていた・・・・・。
ところが、自転車を借りる段に保証金として2,000ルピーを要求された。
そこで、財布の中身を全部見せ、700ルピーで勘弁してもらった。
お腹もすいたので30ルピーのターリー屋に入って、胃袋を満腹にする。
30ルピーにしたら、いまいちだなと思いながら、目当ての城跡に向かう。
城壁の横の坂道で、自転車を手で押しながら気がついた。
「そうだ、ここでは入場料が必要なんだ。残りは70ルピー強しかない・・・・。」
とたんに力が抜けた。
朝早く起き、3時間半も汽車に揺られ、自転車を借り、入り口まで1km強の坂道を、その自転車を手で押している自分がバカに思えた。
とにかく入り口までいって頼もう。
インド人だから、正直に全部見せれば入れてくれるかもしれないと淡い期待を込めて、また重たくなった自転車を押しはじめた。
ここまで来て、帰るなんてことは考えたくなかった。
入り口まで続く坂道は7つのゲートを通る。
太陽が容赦なく照り付けていた。
最初は簡単に断られた。
しかし、何度も説明し哀願していると、責任者らしき人が歩み出てきて、「遺跡の中は見てはならない、それを約束してくれるなら中に入れてあげよう。」と言ってくれた。
私は心の中で、「やったぁ~!」と叫んでいた。
さて、このチトールガルの城壁の中の事は何も語れない。
語れないほど、凄く、綺麗で、素晴らしかったのである。
私が、インドで、いや、今まで見た景色で一番と思えるほど・・・・。
帰りの最悪なバスの中でジャンプしている中でも、チトールガルに来てよかったと何度も心に刻んでいた。