私は今、シリアの第2の都市、アレッポに居る。
宿の周りはタイヤ屋ばかりで、何をするのも簡単にはいかない。
あまり歩く気も起きない街だ。
今日は大統領選挙の日。
街中が浮かれている。
広場では大々的なパーティが催されており、国民は、旗を持ちスキップしながら練り歩いている。
しかし明日からは、また何も変わらないシリアとなるのだろう。
ここのスークはとても綺麗。
趣きがあり、ザ・スークという感じだ。
どこまでもアーケードになっていて、そのモダンな作りに私は心打たれる。
その暗い回廊でも商売人は目を光らせていた。
その後、私は2人の日本人とイラク人とでシタデルを見学した。
シタデルとはこの街のシンボル、そして岩山の上に立つ大きな城だ。
私は、カイロでゲットしたインターナショナルティチャーカードで、150シリアポンド(375円)のところ、まんまと10シリアポンド(25円)で入ってしまった。
イラク人タラルは、とっても陽気にシタデルを案内してくれる。
イラク人だって観光もするし、イラク国内のモバイルフォンも使っている。
英語が堪能で、スマートな発想をする22歳。
一緒にると楽しくなってくる奴だ。
カフェで佇む。
自然と、そしてどうしても、イラクの内情の話になる。
彼の肉親や親戚も多数亡くなっているという。
彼は淡々と話しながら、悲しみを澄んだ目の奥に潜めている。
イラク人を目の前にし、イラクのことに対し正直に今の思考をぶつけることはできない。
そんなに簡単なことではない。
私達が軽々と話せることではない。
私はただ、彼の話を静かに聞き入っているだけ。
タラルは明日を見ている。
将来の事は、目を輝かせ快活に語っている。
複雑だ。
あまりに複雑に絡んでくる。
タラルの話を聞けば聞くほど、あまりにリアルに今の現状が浮き彫りになってくる。
私は自らの口を重く閉ざしているしかなかった。
夕闇せまるシタデルには、黒い鳥が大きく円を描いていた。