エクアドルの国境の町、サン·ロレンツォに着いたのは、すでに午後1時を回っていた。
バスの搭乗員に国境の場所を尋ねたら、荷物運び屋を指さし、"彼が連れて行ってくれる"と言っただけですばやくバスに飛び乗った。
バスはすぐに動き始めていた。
荷物運び屋が連れていってくれた所はランチャ(船着き場)だった。
そこらへんを見渡してもイミグレは見当たらない。
イミグレの場所を尋ねると、タクシーに乗って行けと言う。
私はまた、イミグレを通り越してしまったようだ。
ここがイミグレ?
表記もなければ国旗も立っていない。
ただのサン·ロレンツォのポリスオフィスに、タクシーは横付けした。
そして、只今休憩なので出国手続きは午後3時まで待てと言う。
やれやれと、肩の力が抜け、1時間半待たされるはめとなった。
私は焦っていたのかもしれない。
時間ばかり気になっていた。
アタカメスのツーリストオフィスで教えてもらっていた、コレクティーボ(乗合バス)で国境越えが出来るということをすっかり忘れていたのだ。
私はランチャまで戻った。
この船を逃すと明朝の7時まで船は出ない、というそこのボスの言葉をうのみにし、ほとんど交渉もせず、10USドルという高い金を払ってボートに搭乗した。
ボートは水しぶきを上げながら猛スピードですっ飛んで行く。
美しいマングローブの林をくぐる。
けたたましいエンジン音で密林からの鳥の鳴き声はかき消されてしまう。
西日がキラキラと川面を輝かせていた。
時間が気になる。
コロンビア側のイミグレを本日中に通過しなければ、いちゃもんをつけられ余計な金を請求されるという憶測が頭の中を支配していた。
今まで見たこともないその美しさを楽しむ余裕がなかった。
ボートが減速して着いた所····そこは、ジャングルに覆われた中にひっそりと佇む小さな村だった。
まるで、昔見た映画の中の、ジャングルの中にある楽園そのものだった。
村人全員が川辺で寛いでいる。
なんと綺麗なんだ!
私は言葉を失った。
しかし、こんなところにイミグレが存在するはずがない。
私は、ランチャから軋む古木の階段を一歩一歩登った。
ここがコロンビアなんてうそのようだった。
俺が連れていってやると言うブラザーから2.5USドルを値切るのが精一杯だった。
ほかに選択の余地がない。
高床の小さな家が数件あるだけの小さな村だ。
7.5USドルもしたジャングルツアーは確かに私の目を輝かせた。
私がイメージする豊かなジャングルが目の前にひらけていたからである。
無情にも雨がポツリポツリと降り出した。
もう、荷物の心配をする元気も失せていた。
そして、半分諦めていた。
時間はどんどん過ぎていく。
ピックアップが止まったそこの前には豊かなジャングルの川が流れていた。
私はうなだれた。
とっくに町に着いているはずが、まだジャングルの中にいる。
もう、船乗りの言いなりに2.5USドルを払い対岸まで渡してもらう。
自分の力がどんどん抜けていくのがわかる。
雨が本降りになっていた。
体がびしょ濡れになっても何も感じなってなっていた。
これで町まで連れていってくれるんだなと、何度も念を押しピックアップに乗り込んだ。
びしょ濡れで疲れた体をピックアップの後部座席に預けた。
どこまでもソファの奥深く沈んでいくような感覚に襲われていく。
コロンビアの国境の町、トゥマコに着いたのは午後6時を回り、どう考えてもイミグレが開いているとは思えなかった。
さらには、そこに乗っていた全員がイミグレの場所など知らなかった。
私は、またまたイミグレを通過してしまったことを悟った。
雨の車の屋根を打つ音が響いていた。
そのピックアップの運転手は親切に数件の両替屋を回ってくれ、安宿も紹介してくれた。
安ホテルの階段を力なく上がっていくと、おばさんが笑顔で迎えいれてくれた。
そこに女神が立っているように見えた。