外務省は思ったより手強い。
たった1枚の紙切れをもらうのに、これほど手間取るとは思わなかった。
パキスタンのビザを取得するためには、まず、日本大使館からの紹介レターが必要になっている。
この、レターを取るために、私は日本大使館に向かった。
行きかたは、コンノートプレイスからバスに乗れば、大使館の前で降ろしてくれる。
ここまでは都会らしい便利さで、ストレスを感じない。
私がまず、「パキスタンビザが欲しいので、紹介状を書いてください。」とお願いすると、これを読みなさいと、HPからプリントアウトしたものを数枚手渡される。
その中身には、パキスタンの危険情報が現在から過去にさかのぼって、克明に書かれていた。
あやふやな地図であるが、そこにもいくつかのレベルに区切られ危険地域が示されていた。
それによると、旅行者が行ける地域はラホールを中心とした一部しかない。
その情報はとてもありがたいので、よく熟読し、「読みました。」と窓口に行くと、すでに昼休みとなっていた。
午後2時を回ったので、再度報告すると、レター申請書に記入し、お持ちくださいとばかりに、一枚の紙切れを渡される。(実際には、何も言わず紙を渡されるだけ)
それに記入し、窓口で手渡し待つこと10分、今度は、日本人の駐在員が出てきて、質問攻めにあった。
私は、滞在地という欄に、ラホールとフンザと記述した。
「危険情報は読んだかね?」
「はい。」
「この、フンザというところはどこかね?」
「地図によると、このあたりになります。」
「ここは、見てわかるように、危険地域になっているので、行って欲しくないところなんだ。」
「先程も読まさせていただいたので承知しています。なので、ラホールの宿のインフォメーションノートや、インターネットで調べた事柄を総合して、身に危険を感じる記述があるようでしたら取りやめます。」
「ところで、あなたの所在を確認するのには、どのような方法があるのかね?」
「現在も、友人と頻繁にメール交換をしていますので、もし、私に何か問題があるようでしたらわかるように、さらに細かな情報を織り込みながら連絡をとりあいますので、そこの連絡先を記載しましょうか?」
「携帯電話は持っていないかね?」
「持っていません。」
「一番いいのは(所在を確認する)、ここに正確なる行程表を記載してもらいたい。そして、すぐにホテルを予約し、その通りに行動してもらいたい。このフンザは行かないように。」
「わかりました。ここに、ホテルの名称と時間割りを記せばいいのですね。しかし、私が泊まるホテルは予約ができません。もし、満室の場合は違うホテルになる可能性もありますので、変更の際には、ここの大使館まで連絡します。それで、よろしいでしょうか?」
「んんん、だめだ。少なくても、ホテルの連絡先も記入してくれたまえ。」
「わかりました。申し訳ございませんが、ここのパソコンを使わせていただけませんでしょうか?そうしたら、私が宿泊するホテルの情報がわかります。」
「それは、できない。インド出国からパキスタン出国までを正確に書いて持ってきてくれたまえ。」
「では、後でその情報をメールか電話でお知らせするという方法はいかがでしょうか?」
「いいが、レターの発行はその後になるよ。」
「そこをなんとかと私は頼んでいるのですが?」
「こちら(大使館)としては、レターを発行しなくてもいいんだよ。別に、その義務があるわけではないんだ。」
「・・・・わかりました。しっかりと書いて、お持ちします。」
「そうしてくれたまえ。」
これが、やりとりの一部始終である。
相手の質問にてきぱきと答えたつもりが、どうもやぶへびとなってしまったらしい。
すぐに、インターネットができるところで調べ、ここに戻ってこようとも思ったが、私の頭も瞬間湯沸かし器のようになっていたので、これ以上に傷口を広げるとも限らない。
やめることにした。
翌日、紹介状は何も質問もされず発行された。
それでも私は1時間半待たされた。
内容を見るとなんてことない、名前等を差し替えるだけの簡単な紙切れである。
私の頭の中には、黒澤明監督の「生きる」という映画の1シーンが浮かんでいた。