“ラマダンが今夜から始まるよ。”と、ムハマンドから告げられたのは昨晩だった。
ああ、そうか、ここはムスリムの国だもんな、と、その時は軽く考えてベッドに入った。
朝起きて、シャワーを浴びようとすると、シャワー室に鍵がかかっている。
シャワー浴びたいから開けてくれる、と頼むと、何故か女性専用の方に入ってくれと言われる。
この時も、シャワーが壊れているのかな、としか考えていなかった。〈注意1〉
その後、朝飯でも食べるかと、いつものレストランに向かうとシャッターが閉まっている。
そうか、ラマダン・・・・か。
私は少し青ざめた。
街に出てみてもその通りで、数少ないレストランは全て閉まっている。
やっと、開いているパン屋をみつけて、パンを買い宿まで戻った。
自分の部屋で静かに、音がしないようにパンを食べ、水を飲む。
そう、ラマダン中は水さえも飲めないのだ。
皆が食事にありつける19:30、まで、一切口にできない。
勿論、観光客相手に闇で開いているレストランはあるが、高いし不味いことは言うまでもない。
15:00位になると、どの店も閉まり始め、ゴーストタウンとなってしまう。
バスさえも動かなくなる徹底ぶりである。
よし、こうなったら付き合うか。
私は当然ムスリムではないが、文化を共有せずしてその国の文化は見えてこないことを知っている。
さて、約束の19:30になると、モスクから、ラジオから、その日のラマダンの終をつける祈りのコーランが聞こえてくる。
あちこちから慌ただしい人々の声と金属音が聞こえ、一切に食事が始まる。
宿のスタッフからも食べないかと誘いを受けたが、様子を見に外に出てみる。
ウロウロしていると、あっちこっちで食べてけ、と誘ってくる。
その言葉に甘えて座ると、シェルパにパンに卵焼きという、質素だがおいしい夕食にありつける。
そして、チェニスの人々と新しいコミュニケーションが生まれる。
おっと、チュニスの人ばかりではない。
お隣のリビアやアルジェリアの人々とも出会えたりする。
エスプレッソを飲んでいると、もう一杯飲んでけと注がれる。
楽しい夜は終わりを知らない。
おいしいチュニジア料理にはありつけないが、こうなるとラマダンも良いものだと思ってしまうのである。
しかし、エスプレッソが自由に飲めないのにだけは、がっかりしてしまう私であった。
〈注意1〉:現在止まっている宿はメディナの中にあり、完全なチュニジア人のための宿だ。私は無理矢理頼み込んで、1泊9ディナール(約900円)で泊めさせてもらっている。勿論、外国人は私ひとりである。
近くには、朝食付8ディナールのユースホステルもあるのだが、私の楽しみを奪う規則があるため遠慮した。