ピアノが聴こえてくる。
その家の小さく突き出た窓枠にちょこんと座る。
練習曲ではない。
ラフマニノフを完璧に演奏している。
凄い!
見事な演奏に聞き惚れてしまう。
ところが通行人は、そんなのどこでも聴けるぜと言わんばかりに、足早に過ぎ去ってゆく。
カテドラルの周りでは、観光客相手に音楽をやっている。
私はその音楽の空気を深く吸い込みながら通り過ぎる。
アルバイシンに行ってみる。
どこまでも続くかのような石畳の坂道を登る。
途中で足を止め、下界を見下ろすとミニチュアのような、街の見事な景色が飛び込んでくる。
サンニコラス広場では、すでにロマ人が私の望む音楽を奏でている。
見事な演奏にさっそく出会えて、思わず口元がほころんでしまう。
私は手拍子を叩きながら、その仲間に入っていく。
さらに丘の頂上にある教会まで登ると、数人の若者がハシシを吸いながら踊っている。
私は、ハシシはやらないが、その中に入って踊る。
サンニコラス広場に戻ってみると、交代を待っているやからがギターを弾いている、
誰もが、トマディートかパコ・デ・ルシアになったかのように、凄まじいギター合戦が繰り広げられている。
階段通りでは、酒をおごられ、歌を歌わされ、一緒に踊り、ロマミュージックに明け暮れた。
今は、アンダルシアのグラナダにいる。
私は、ここを目指してヨーロッパをまわっていた。
ここには数人の友人がいるが、その所在はわからない。
しかし、私の求めていた音楽が溢れている。
ここは特別なのだ。
“ラッチョドローム”の世界のように、“僕のスゥイング”の風景のように、酒と、ギターと女がいれば、いつまでも踊ることが許される・・・。
いま、私は例えようがないくらいの幸せを感じている。
いつまでもここに居たい、そんな衝動にかられている。