飛び起きて時計を見ると7時半を指していた。
まだ、間に合う。
どうしようかと少し迷うも、急いで長袖のシャツに袖を通した。
私はバスターミナルに急いだ。
通りの街灯からオレンジの光が温かく石畳を照らしている。
まだ、空は真暗だった。
しばらく行くと朝日に照らされたウマワカ渓谷が見えてくる。
この山肌は千変万化、華やかな色がくっきりと目に飛び込んでくる。
山上の雲が光っている。
私は寒さを忘れ、汚れたおんぼろバスの車窓を開ける。
やがて、バスは砂利道へ入り、ガタガタと振動し始める。
川が増水しているのだろう、濁流の川をバスが渡る。
バスは蛇行し、何度も、川に陥没した道なき道を走る。
空は黒い雲に覆われ、怪しくなってきた。
一面緑に覆われた山々が視界に広がる。
雲が切れ始め陽が差してくる。
緑の絨毯に雲の形がくっきりと影になり、その美しさを際たたせている。
バスが泥濘にはまり動かなくなってしまった。
運転手と助手とでタイヤの周りを掘り、そばの小さな石や草を詰込んでアクセルを踏んでみる。
アクセルの踏み方も下手だし、手際が悪い。
案の定、どんどんその深みにはまってしまう。
まさか初めてのことではあるまい。
なぜ板切れを用意していないのか不思議だ。
結局、男どもが降りて押すことになった。
私のスニーカーは泥に埋まってしまった。
やれやれ、ついこの前洗ったばかりなのに·····。
バスは4000Mまで登っていく。
少しでもタイヤを滑らしたりしたら真っ逆さまに落ちてしまいそうなぬかるんだ山道を、慎重にバスは進んで行く。
ポツポツと雨が降り始めた。
刃渡り100Mの巨大な包丁で、バサッと切り落としたような垂直な山肌が連なっている。
その豪快な景色の下に小さな村がある。
ここが目的地なのかと思ったが、ひとりだけ村人を降ろしさらにバスは進んでいく。
また陽が差してきた。
そして青い教会の屋根が見えてきた。
出発から4時間以上が過ぎ、ようやくアドベンチャーは終焉のようだ。
このおんぼろバスで走った4時間はアドベンチャーに満ちていた。
楽しく、美しく、そして恐ろしい4時間だった。