空から、ポツリポツリと涙が落ちている。
今にも崩れそうなオレンジの瓦が、その色を黒く変色させている。
バスから荷物を引きずり出しているおじさんの、荷物番号を告げる声が荒くなってきた。
私はクスコに着いた。
また、寒い地に戻ってきた。
今日が何日だったのかを必至に思い出そうとしているところで、私の荷物の番号が叫ばれた。
石畳を走る車の、ザラザラとした音が絶えない。
歩道はひとりで歩くのがぎりぎりの狭さで、何どもその歩行を止めなければならない。
クスコは観光客の増加で、まるでラパスのように排気ガスが充満している。
もう以前のような、人々の声がこだまするあの異空間は望めないのか。
あの、山々までも星で煌めいた美しい静かな宇宙に行けないのか。
クスコは以前のクスコではなくなってしまっている。
黒い雲が大きな手となり、クスコの町を呑みこもうとしている。