雲が多い朝を向かえた。
静かで、いつものような朝だった。
下を向いて歩く人々。
公園のベンチでゆっくりと寛ぐ人々。
バスも何事もなく走っている。
セントラルパークでは、走りながらタイムを計っている女性を見かける。
タイムズスクェアでごった返している観光客。
街のリズムはいつもと変わらない。
今日は911。
2001年に起こったあの悲劇を追悼する日。
グランドゼロは、工事をせず静まり返っていた。
教会を訪れている人々の目から涙がこぼれ落ちた。
花束や千羽鶴が金網にくくりつけられている。
メッセージボードを掲げ、通り過ぎる人に声をかけている人がいる。
広場では、ロウソクを手に歌っている人々が輪になっている。
亡くなった人々の名を次々に読み上げる人にフラッシュの光が浴びせられている。
ところどころで、コンサートが行われている。
プロもアマチュアも、この日ばかりは一緒に演奏し歌っている。
消防隊の追悼式には沢山の人垣ができている。
いつもは車の排気ガスで充満する通りが歩行者天国となっている。
ここを初めて訪れた時、私は涙が止まらなかった。
涙腺が弱いはずではないのに、溢れた涙をぬぐう事もせず歩いていた。
しかし、今日はそんな感情にはなれない。
なぜなのかはわからない。
さあ、ニューヨークを出よう。
今日一日のこの想いを忘れずにアメリカを離れよう。